症例報告
URAT1遺伝子の複合ヘテロ接合変異を呈した腎性低尿酸血症を伴う運動後急性腎不全の1例(2014)
常世田智明
日本臨床スポーツ医学会誌 2014; 22: 525-9
30歳男性。1500mを3回全力疾走した後、腰背部痛、嘔気が出現。救急外来にてNSAIDsを処方されるも改善せず当科受診。血清Cre8.79mg/dlと腎機能障害を認め入院。健康診断での尿酸値が低く、病歴から運動後急性腎不全と診断。輸液を行うも、一過性に無尿、代謝性アシドーシスが出現し血液透析を併用したが、腎機能正常化し退院。URAT1遺伝子の複合ヘテロ接合変異による腎性低尿酸血症も判明。再発予防のため乳酸性作業閾値以下での運動を推奨した。
Acute renal failure with severe loin pain and patchy renal ischemia after anaerobic exercise in a patient with renal hypouricemia demonstrating compound heterozygous mutations of uric acid transporter 1
The patient was a 30-year-old man who experienced lower back pain and severe nausea, several hours after sprinting 1500 m 3times. He was prescribed NSAIDs in the emergency department, but his symptoms did not improve. He was admitted to our department because of renal failure (serum creatinine 8.79 mg/dl). Because the uric acid level in the previous health examination data was so low, that the auther made a diagnosis of ALPE (acute renal failure with severe loin pain and patchy renal ischemia after anaerobic exercise) based on the history of his illness. He was treated with intravenous fluids. However, anuria and metabolic acidosis appeared transiently, so hemodialysis was performed. He completely recovered 14 days after admission. Genetic testing was performed for mutations in URAT1 (uric acid transporter 1), and the results demonstrated a compound heterozygote for R90H/W258X causing renal hypouricemia. Exercise below the lactate threshold was advised in the hope of preventing recurrence.
早期現場復帰がなされた特発性後天性全身性無汗症の2例(2012)
飯村譲, 小嵐正治
日本臨床スポーツ医学会誌 2013; 21(1): 234-6
総説
市民マラソン大会におけるランニングドクターの役割(2009)
小嵐正治
臨床スポーツ医学 2009; 26(3): 323-7
国際学会発表
Do We Need a Designated Smoking Area in a Marathon Event?(2015)
Tatsunori Suzuki, Taigi Yamazaki, Kakei Ryu, Shinichi Kobayashi, Noriko Hida, Takehiko Sambe, Naoki Uchida
Society for Research on Nicotine and Tobacco Annual Meeting, Philadelphia, Feb. 2015
Background: Running is one of the most popular sports among Japanese. The population of Japanese who participate in running events is increasing. Recently, many Japanese are becoming more aware that secondhand smoke can be as risky as smoking on health. However, few running events in Japan ban smoking in order to protect passive smokers. There are limited data on the smoking habit of Japanese who participate in running events. In this study, we investigated the incidence of smoking in Japanese full- and half-marathoners and how smoking marathoners perceive the effect of smoking on their performance and secondhand smoke on non-smokers.
Study Design and Methods: Questionnaire was mailed to all participants of 2008 Ibigawa Marathon (Gifu, Japan; n=8654) approximately one month before the event. Completed questionnaire was collected on the day of the event. Nineteen hundred marathoners (22.0%) replied to the questionnaire.
Results: The smoking rate of marathoners (male 8.2%, female 3.6%) is significantly less than the rate in the general population (male 39.5%, female 12.9% in 2008). Many past smokers (97.5%; 770/790) and current ones (81%; 117/144) recognize that smoking has bad effects on their running performances. However, one-fourth of the heavier smokers (more than 20 cigarettes a day) do not believe that secondhand smoke affects the performance of passive smokers. Approximately 50% of marathoners suggest that a specified smoking area is needed during running events.
Conclusion: Since 50% of marathoners prefer a specified smoking area in running events, we would not ban smoking completely from these events. We should specify several smoking areas that are away from non-smokers to prevent them from exposure to passive smoking. We believe that one of the reasons runners continue to smoke is that they have few opportunities to obtain correct information about the risks of smoking, including secondhand smoke on non- smokers, on running. It is important to enlighten runners who smoke about the risk of smoking on their health and performance, as well as the undesirable effect of secondhand smoke on passive smokers.
国内学会発表
突発性後天性全身性無汗症の2例(2011)
飯村譲
第22回日本スポーツ医学会学術集会, 青森, 2011年11月
【はじめに】運動時の疼痛を伴う蕁麻疹の出現と発汗量の低下、呼吸苦を認め運動を休止し、医療機関を受診するが改善認められずやむを得ず現役を引退する選手の存在がある。私は過去に同様の症状を呈する患者を診察する機会があり突発性後天性全身性無汗症(IAGA)と診断し、治療を行ない早期に現役復帰を果たさせた2例を経験しているので簡単に報告する。
【症例】症例1)21歳女性、症例2)26歳女性、両名ともグランドホッケーのナショナルチームの選手で主訴は無汗、運動時の蕁麻疹、体温上昇、呼吸苦で家族歴、既往歴に特記すべき事項なし。2名とも運動時に症状が出現し運動ができなくなり受診。症状等よりIAGAと診断しステロイドのミニパルス療法(ソルメドロール250mg2日、125mg1日)を実施しその後プレドニンの漸減内服加療を行った。2例とも早期に症状消失し現役復帰を果たしアテネ、北京オリンピックで活躍した。
【考察】1976〜2006年でIAGAの報告例は50例で病理組織像の記載があるものは44例であった。病理組織的に汗腺の形態異常が無い症例は32例あり、性差は男性30例、女性2例であった。また発汗低下を自覚した時期を発症時とすると、平均年齢は25.7歳であった。また、発症時から診断までの平均年数は1.3年であった。いずれにしても本症例2例も含め治療には副腎皮質ステロイド薬の全身投与が効果的であり、早期に開始すれば汗腺の形態異常も発症せずに治癒できる。
【まとめ】パルス療法中は入院が好ましいが3日間程度と短期間で済み、早期に現役復帰が可能になる。以上より同様の症状の選手に遭遇した時、この疾患を念頭に置き治療に当たることにより早期に治療ができ現役復帰が可能である。
マラソン中に胸痛を起こした冠動脈起始異常の1例(2010)
雨宮正, 伊藤茂, 末定弘行, 橋本雅史, 片山直之, 及川裕二, 小嵐正治
多摩虚血性心疾患研究会, 東京, 2010年
大規模マラソン大会におけるランニングドクターの役割(2010)
内藤勝行, 小嵐正治, 佐々木勝教
第23回日本臨床整形外科学会学術集会, 横浜, 2010年7月
市民マラソン大会におけるランニングドクターが行う医療活動に関する有効性の検討~その可能性と今後の課題~(2009)
佐々木勝教, 小嵐正治, 蓮見謙司, 松本俊彦, 鈴木立紀, 池田弘人, 下條信雄, 清成則久, 柏尚祐
第20回日本臨床スポーツ医学会学術集会, 神戸, 2009年11月
市民参加型大規模マラソン大会の救護体制にドクターランナーは有用である(2009)
佐々木勝教, 小嵐正治, 蓮見謙司, 松本俊彦, 鈴木立紀, 池田弘人, 森村尚登
第37回日本救急医学会総会・学術集会, 盛岡, 2009年10月
【はじめに】市民参加型の大規模マラソン大会における救護体制ではAEDの有用性が認識されているが、競技の特性上、救護スタッフ到着に時間を要する可能性がある。このような場合、競技に参加している第一救助者が質の高いCPRを施行することが予後に大きく関与すると思われる。2009年に開催された2つの大規模市民マラソンにおいて、巡回走の医師(ドクターランナー)による適切な初期対応で後遺症なく社会復帰したCPA2症例を経験した。
【症例1】東京マラソン2009:40歳代の男性が14.7キロ地点で倒れた。ドクターランナーはこの男性が数キロ前から非常に苦しそうに走行しているのを認識しており、迅速に心肺停止を確認、CPRを開始した。胸骨圧迫は非医療従事者が行ったが、医師の適切な指示によりAED到着までCPRを継続した。AED到着後に2回ショックを施行し、自己心拍が再開、後遺症なく社会復帰した。
【症例2】第19回かすみがうらマラソン:40歳代男性が40キロ地点で倒れていた。死戦期呼吸を呈していたが、救護スタッフは認識していなかった。ドクターランナーが心肺停止と診断し、直ちにCPRを開始した。AED到着に4〜5分を要したが、一回のショック後に自己心拍が再開した。
【考察】これまでの大規模マラソン大会の救護体制ではCPAに対するAEDの配備に重点がおかれていたが、競技エリアが著しく広く、AED到着が想定外に遅れる可能性がある。速やかな電気的除細動が施行できない場合は、質の高いCPRの継続が重要だが、救護スタッフの数、医学的知識や臨床経験が不十分であることがある。医師が巡回走することで、急変症例に対して迅速、適切に対応でき、患者の良好な予後に寄与し得る。
大規模マラソン大会参加者を対象とした喫煙に関する意識調査(2009)
鈴木立紀, 鈴木磨美, 堀口速史
第4回日本禁煙学会学術総会, 札幌, 2009年9月
【背景】健康増進法の施行に伴い公共の場での喫煙が制限されるようになってきているが、日本各地で開催されているマラソン大会で特別に喫煙対策が施されている大会は現状ではあまり見受けられない。また、市民ランナーを対象にした喫煙に対する大規模な意識調査はこれまで行われていない。
【目的】大規模マラソン大会に参加する市民ランナーがどのような喫煙経験を有し、喫煙(受動喫煙を含む)に対してどのような意識を持っているかを調査し、今後のマラソン大会における喫煙環境の方向性を検討する。
【対象と方法】2008年11月に岐阜県で開催された「いびがわマラソン」にエントリーした8654名(男性7313名、女性1341名)に対して大会前にアンケート用紙を郵送し、大会前日および当日に大会会場にて直接回収した。
【結果】回答者数1900名(男性1637名、女性250名、性別不明13名)で回収率22.0%であった。喫煙者の割合は男性8.2%、女性3.6%で、年代別では男女とも年齢が低い程喫煙率が高かったが、女性は50歳代のみ他の年代に比べ喫煙率が高かった(20-40歳代2.3%、50歳代10.0%、60-70歳代0.0%)。喫煙が走力に悪い影響を与えると考える割合は、元喫煙者97.5%に対し、喫煙者(10-19本/日)では76.7%と低かった。受動喫煙が走力に悪い影響を与えると考える割合は、非喫煙者92.2%、喫煙者(9本以下/日)91.4%に対し、喫煙者(10本以上/日)では74.3%と低かった。大会会場の全面禁煙は全体では52.1%が希望したが、非喫煙者55.2%、喫煙者15.3%と両者間の差は大きかった。会場内で自由に喫煙してよいとする割合は、非喫煙者0.7%、喫煙者(19本以下/日)0.9%に対し、喫煙者(20本以上/日)では5.6%と高かった。
【考察】市民ランナーの喫煙率は日本人全体と比較してきわめて低かった。元喫煙者の97.5%が喫煙は走力に悪い影響があると自覚しているが、一方で喫煙者の81.3%は悪い影響があると自覚しながら喫煙を続けている。この理由として、ランナーが喫煙に関する正しい情報に接する機会が少ないことが挙げられる。大会参加者の約半数が会場内に喫煙所は必要と考えている現状では、強行に全面禁煙を訴えるのは得策ではなく、まずは完全分煙を実行しながら喫煙に関する正しい知識を啓蒙していく必要がある。また、大会運営側は、受動喫煙をしないように工夫された喫煙所の設置と、喫煙マナーの徹底を呼びかける努力を怠ってはならない。
【謝辞】アンケートの配布、回収はいびがわマラソン実行委員会の協力により行われた。
ライフスタイルが「心と体」に及ぼす影響の研究〜日医ジョガーズ連盟1996年度追跡調査より〜(1997)
藤原正義, 鳥居俊, 久保田競, 萩原隆
第8回日本臨床スポーツ医学会学術集会, 東京, 1997年11月
【テーマ<運動が健康と寿命に及ぼす影響>】上記展望的研究を平成元年を期してスタートさせた。全国の日医ジョガーズ連盟会員より運動量はじめ日常生活、X線、ECGその他検査データーの提出を求めた。一方コントロールとして運動していない友人医師の情報も提出を求め、比較検討し、さらに追跡調査を行った。
【結語】ジョギング愛好家は、運動習慣を有しない者に比べ、高血圧・高脂血症・糖尿病などの現病歴を有する割合が少ないとは言えなかった。しかしジョギング習慣により、循環系・脂質系において 運動改善効果を認めており、現病歴を有する者においても治療効果が期待される。
【考察】調査を始めた頃、両群の差は、血圧、脈拍数、血糖値、総コレステロール値において認められた。しかし10年を過ぎる頃からスポーツ群に整形外科的障害が目立ち始め、障害のため走れなくなった・・・、その他の理由でランニングから遠ざかってしまった・・・というケースが跡を絶たず、10年以上走り続ける会員は減少傾向にあると思われた。
最終更新日:2024年10月30日